第6章 手に手をとって
不意に黒尾さんがフッと微笑んだ。その柔和な表情に胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚える。何故か今の黒尾さんは儚さを纏っているように感じてならない。触れれば消えてしまうような、そんな儚さを。
黒尾さんは表情を崩さないまま私を見詰める。
「何か、大切にされてんな」
「そう、かも、ですね…ちょっと、恥ずかしいですけど、でも、嬉しいです…」
照れるのを必死堪えながら答える。唐突にそんな事を言われた事による照れ臭さを隠すように、自身の前髪を指先で弄る。
「まっ!そんなお前は大丈夫だと思うんだけどさ、あー…なんつーの?そのー…悩みとかあんならさ、何時でも話、聞く、からさ」
「は、はあ…?」
またもや脈絡の無い言葉に呆気に取られる。対する黒尾さんは恥ずかしそうにうーと唸り、自身の髪をぐしゃぐしゃと乱す。
「あーだからっ!そのー、な…ああもうハイこれ!」
ぐっと押し付けられたのは、折り畳まれ縮小している一枚のメモ用紙だった。
「な、何ですか、これ」
「い、良いから開いてみろよ」
照れ臭そうに首筋を掻く黒尾さんに、余計にメモ用紙の内容に期待が高まる。手中のそれを丁寧に開いてくと、白い紙面に一行だけ文字が躍っていた。その綴られている字に、口が自然と問いを零した。
「これ、メールアドレス…?」
「そ。俺のメールアドレス。登録しとけよな」
顔を上げて黒尾さんを見詰めると、メールアドレスを渡した本人は落ち着かないのか口元をもにゅもにゅとさせている。
「……」
「な、何だよ、いらねぇのか?」
「あ、いえ、そうじゃ、ないん…ですけど……」
「じゃ、じゃあ何でいっ」
私は口元を片手で軽く覆う。真っ白な頭は熱い頬の事などきっと忘れているだろう。