第6章 手に手をとって
「……く、黒尾、さん……?」
目の前に佇んでいるのは、黒尾さんだった。
音駒の皆は突然の出来事に、唖然としている。私の背後に立っている烏野の皆も同様の様子なのだろうか。顔を俯けていた為彼が何時動いていたのかは分からないが、頬に触れる右手の体温に、不思議と心は落ち着いていた。
「あ、あの、黒尾さ、」
私の言葉は、喉の奥へと消えていった。黒尾さんのもう片方の手が伸びてきて、私の頬を完全に包み込んだからだ。与えられる黒尾さんの熱に、両頬がどんどん熱を帯びていく。
濡れた黒尾さんの瞳が私を静かに見据える。私は何故か瞳を逸らせず、縫い止められたかのように私も見詰め返す。
「お前が…」
黒尾さんはポツリと呟いた。私は疑問符を浮かべながらも、耳を傾けた。聞かなければならない、と何故かそう感じたから。
「お前が、うちのマネージャーだったら良かったのに…」
私は再び目を見開く。
何で、そんな顔をするのだろうか。
─────何で、今にも泣きそうな顔を。