第6章 手に手をとって
その瞬間、音駒の皆と今日一日の記憶が再生される。それこそ出会いは唐突だった。突然黒尾さんに今日一日マネを勤めて欲しいと言われ、緊張でお腹痛いよ状態の中での出会いだ。もう頭真っ白だった。
でも、得たものはそれ以上なわけで。皆は、無愛想な私を優しく受け入れてくれた。あれ、男子の人って優しいんだ、烏野の皆だけじゃないんだと気付いた。自分の強く凝り固められた偏見が、少しだけだが剥がれた気がした。
そして、音駒の互いの信頼関係。部員一人一人が互いに手を取り合い、一つの円を作っているかのような関係に強く惹かれた。相手の力を信頼しボールを繋いでいく光景は光よりも眩かった。
烏野の皆は、お互い手を繋いではいるが、個々の見ているものはそれぞれ異なっているように感じる。烏野の皆も、音駒の皆のような関係になれると良いなと密かに思った。
本当に、音駒の皆にはたくさんのことを教しえてもらった。
そして、たくさん優しさを与えてくれた。
だからこそ、帰るのが苦しい。さようならと、たった一言を口にするのが、辛い。でも、言わなくてはならないのだ。
「……」
口が、上手く、動かない。
何故か、この言葉を言えば、
「……ッあ、の」
もう会えないような、そんな気持ちが、湧き上がってきて、
「本当に、ありがとう、ございました…。さ……さ、さよ、な、」
呼吸が、苦しい。
「─────────瀬戸」
眼前の人影の、温かい手が私の頬に触れる。不意に当てられた体温に驚き目を見開く。戸惑いながらも、ゆっくりと顔を上げた。