第6章 手に手をとって
「もっと強くなりたい。もっと、もっと。誰よりもと、必死になって練習してました。日向も、そして私も。お互いに同じ気持ちで、お互いに負けたくなくて…」
あの時の記憶は、不思議なくらい鮮明に思い出せる。
もっと強さを、もっと先へ、誰よりも───。
まだ知らない更なる高みへ。
対峙する日向の瞳が“負けない”と、語っていたのを覚えている。だからなのだろうか。お互い口には出さずとも分かったのは。
「私にとっても、日向にとっても、あの時、私達は、間違いなく─────“好敵手”でした」
影山さんは静かに私を見詰める。ざあっと風が流れる。まるで私の言葉を攫っていくかのように。まるで、それは過去の事だと私に知らしめるかのように。そんな事、自分が一番よく分かっているのに。
「私達は好敵手であると同時に、バレーをする仲間でもありました。でも、でも私は、どうしようもなく、苦しかったんです」
顔を俯け、垂れ下がる髪の毛で歪む顔を隠す。
「好敵手で、仲間で…。なのに、私に出来るのは一緒に練習をすることだけ…」
次第に唇が震える。自分で自身の両腕を抱く。浅瀬の中に立つ私の足が僅かに温かくなる。日に当たって生温かくなった水が、私を嘲笑しているかのように感じた。
「私は、彼と一緒に戦うことは、出来ない…」