第6章 手に手をとって
すでに女子バレー部の部活が終了していたが、日向さんが自分で片付けるので残しておいて欲しいと直談判していた為、ネットはまだ小綺麗に残っていた。
コートの中には、そわそわしながらボールを持つ日向さんと、数歩引いて立つ私だけだ。不思議な感覚を覚えながらも、しっかりとした緊張感が胸の内に起こる。
『じ、じゃあ、お願いします』
『おうっ!』
日向さんの一挙手一投足に神経を尖らせる。日向さんの手からボールがふわりと離れ始める。その瞬間私は足を踏み出し初動を開始する。
日向さんのトスは多少ふらついてはいるが、位置は問題無い。自信は無いが、上手くカバーしてみせる。
─────ダンッ!
強く床を踏み締め跳躍する。反射的に左腕を身体の方へと寄せ、強く拳を握り締める。眼前のボールへと振り被った右腕を向かわせる。意識を、神経を、全てボールへと集中させる。
ドパンッ!!
ストンと着地し、荒く呼吸をする。ネットの向こう側ではボールが空虚に転がっている。妙にスッキリとした頭の中では、先程のスパイクの反省が自然と行われている。うむ…もうちょい高く飛べたらもっと良かったな。
『げえ……!』
『はい…?何ですか、』
『すっげえええええええええええええッ!!』
『!?!?』
がしっと私の両肩を掴み、輝く瞳で私を見詰める。頭の片隅で、あ、日向さん私とあんま身長変わんないとか、何故かそんな事を考える。
『瀬戸すっげえスパイクだな!!超カッコいい!!』
『い、いえそんな、やっぱり先輩のスパイクには敵いませんし、まだ下手ですし…』
『でも瀬戸絶対先輩追い抜くよ!!3年生になったら、きっと瀬戸はすげえ選手になってる!!』
『!! あ、ありがとうございます』
お世辞でも何でもない、ひたすらに純粋な言葉に嬉しくなる。日向さんは私の肩から手を放すと、感嘆の声を上げながら、腕を振り被ってスパイクを打つポーズをする。ちょっとバドミントンにも見えるなあと思ってしまう。不意に日向さんは腕を下ろし、静かにネットを見詰め始める。