第6章 手に手をとって
『あ~。その子日向翔陽クンだね』
『えっ、マジ?知ってんの?』
目の前の席に座る友人△△は、紙パックジュースをずずっと吸いながら答える。
『知ってるも何も、その人練習してるの見たことあるもの』
『え、だって△△吹部でしょ?何で見たことあんの?』
私は机から身を乗り出して問い詰めた。
『へ?伊鶴知んないの?日向クン体育館で練習してるだけじゃないわよ?』
『えっ?嘘っ?!』
『嘘じゃないない!アンタ、日向クンが体育館使えない時とかあったでしょ?その時日向クン居なかった時とかない?』
△△は空になった紙パックを片手で握り潰し、ゴミ箱に見る影を無くした紙パックを投擲する。勢いの着き過ぎたそれはポンと撥ねてゴミ箱に入る事なく落下した。△△は軽く舌打ちを零すと、何事も無かったように私に向き直る。どうやら拾いに行く気は無いようだ。後で捨てておこう。
『あー…あったあった!私らが部内で試合する時とか。勢い付いたボールとか飛んで来たら危ないからって部長が追い出してたの何回かあった』
『そ、多分その時かな。ウチが部活中外見た時さ、グラウンドの隅の方で上に向かってボールぽんぽんしてる人居てさー。あれサッカー部じゃないよなーって思ってよく見たらその人オレンジ頭でさ、あれが噂の日向クンかーって思ったの』
△△は楽しげに笑顔を浮かべて語った。彼女が語った中で、私はある言葉が引っ掛かっる。
『噂の?』
『うん、噂の!日向クンね、うちの部にいるアッちゃんに部活終わりに練習付き合ってもらってるんだって』
『!』
『アッちゃん疲れるわーってボヤいてたのよね~~』
『そ、そーだったんだ…』
△△は愉快そうにケケと肩を揺すって笑う。どうやらそのアッちゃんなる人物の嘆きが愉快でたまらないようだ。うわお。
『でもさー…』
『?』
『アッちゃんね、こうも言ってたのよ。───“アイツ、どこまでも真っ直ぐでさ、力になってやりたいって思うんだ”……だってさ。アッちゃんのくせに良いこと言うのよ』
△△は穏やかな顔でそう言った。