第6章 手に手をとって
* * *
水面を指を押し付け、そのままゆっくりと指を進めていく。水の不可思議な感触が手を侵していき、自分の手の感覚が不透明に陥る。そこから手を引き抜くと、濡れそぼった手が姿を現す。
特に意味の無い行動に、自分でも半ば呆れる。無駄に手ぇ濡らしただけじゃないかい。両手をぷらぷらと振り水滴を払う。ある程度水気が取れると、ちらりと後方に目をやる。
「あ、あの…影山さん」
「…ん、あ、悪い。何だ?」
考え事でもしていたのか、少し間が空いてから影山さんの反応が返ってきた。
「何か、私に話したい事が、あるんですか?あの、私をここに連れて来たってことは、えと、何か言いたい事があるんですよね?」
「あ、ああ。その、お前、俺にお礼が言いたいって言ってたから、気になって。今、聞いても良いか?」
「! ……はい、分かりました」
「私が、日向と同じ中学だったのは、知ってますよね」
「ああ」
「私、中学の時バレー部だったんです」
「!」
その言葉に影山さんはピクンと眉を撥ねさせる。どうやらその事は初耳だったらしい。確かに部活の皆にも言ってなかったな。この事実を知っていたのは、日向と潔子先輩だけだった筈だ。
「バレー部に入って少しして、日向を見かけました。その時日向は体育館の隅で一人、壁に向かってボールを打っていました」
─────ボンッ!!
『(? 誰あの人…。一人で、バレーの練習?あっ、そういえば、男子バレー部出来たとか誰か言ってた気がする…。あの人か…)』
──────ボココンッ!!
『あだっ!』
『(下手っぴだけど……)』
「初めて見た時は、何だこの人って思いました。たった一人で女子ばっかが練習してる体育館のコートの隅で練習して、気恥ずかしさとか無いのかな、って思ったりしてました。それからちょっとずつ日向の事が気になり始めて、友達に聞いて回ったりしてたんです」
「……」
影山さんは静かに私の言葉に耳を傾けてくれている。澄んだ風が私達の体を撫でていく。
「そしたら、ある子が私に教えてくれたんです」