第6章 手に手をとって
※ ※
「ちょっとは落ち着いた?」
「…おかげさまで」
タオルを口元へ持っていき、黒尾は鼻をスンと啜る。タオルを取り払った事で、泣き腫らし仄かに赤く染まった目が露わになる。研磨は近場の小石を川へと放りながら言う。
「俺のタオルに鼻水付けないでよね」
「付けないよ!いや付けないけどそこは妥協しても良くない?!」
研磨は黒尾へと瞳を向ける。隣でぷんすこと頬を膨らませる彼に対し、軽口を言う元気は出てきたみたいだと認識する。
研磨は黒尾から視線を外し、暫しの間思考を巡らせる。風が研磨の髪を躍らせ頬を叩いた。やがて研磨は決心したかのように視線を水面へと移し、軽く息を吸い唇を動かし始める。
「これから先さ」
「?」
「クロは、どうするの?」
「……」
黒尾は研磨から視線を外し、口を噤んだ。研磨はそれを予想していたかのように言葉を綴る。
「俺はさ、クロが瀬戸のこと支えられないって思ってない。クロはちゃんと瀬戸こと分かってると思うし、瀬戸が抱えてる何かも、ちゃんと受け止めてあげられるんじゃないかな」
黒尾は押し黙り、一点を見続けている。その瞳には大きな不安や感情が渦を巻いている。研磨は目の前の自身の膝に両手を置き、その瞳を見詰める。
「でもそれはあくまで俺の意見。どうしたいかはクロの決める事。だから俺はクロの気持ちを尊重する」
黒尾は研磨の瞳を見詰め返すと、下唇を噛む。それからゆっくりと下唇に突き立てていた歯を離すと、口を開いた。
「まだ、自分がどうしたいか、分からねぇ…。自分がどうしたら良いのかも…」
「そっか…」
二人の間に緩やかな沈黙が降りる。他の皆の楽しげな声と、流れる川の音がやけに大きく二人の耳に届く。研磨はゆっくりと黒尾を見詰め直し、沈黙を割いた。
「なら、クロはさ」
「?」
「瀬戸の一番の理解者になってあげれば良いんじゃない?」