第6章 手に手をとって
黒尾は片手を目元に添えた。しかし、その手で溢れ出すそれを拭い取ることはしなかった。まるで、自身の無力は嘆くかのように、ただそれを添えるだけであった。
「あー何だ、そうかって思った。それなら、取り持ってやろうって思ったんだ。アイツがそれを望んでんならってっ…」
研磨は静かにスマートフォンをズボンのポケットに仕舞い込み、肩に掛けていたタオルを手に持った。
「都合の良いヤツだって思われても良い。それでも良いから、瀬戸にしてやれることをしてやりたかったんだ…。俺は、きっと、支えてやれないから…」
────────ぽふっ
「ん?!が、ふっ!」
突然の柔らかさに顔を襲われ驚愕する。顔に襲い掛かってきた物体を手に取ると、それは研磨のスポーツタオルだと気付く。
「とりあえず顔拭きなよ。ヒドイ事になってるよ」
「う、うるせえやい!」
しゃがみ込み悪態を吐きながらも、研磨の厚意に甘えて顔を拭う。研磨は黒尾を一瞥すると、口を開いた。
「辛かったね、クロ」
「ホントは自分が支えたかったよね」
「でも自分じゃ瀬戸の事分かってあげられないかもって思ったんだね」
「それで、自分の気持ちより、瀬戸の事を理解出来るあのセッターくんをくっつけようとしたんだよね」
「それってきっと誰でも出来る事じゃないよ」
「クロはちゃんと瀬戸の事考えてるじゃん。何でそんな不安に思ったのさ?」
「そんな風に考えなくて良いよ。だって、クロは瀬戸の事────」
黒尾は再び涙を流した。嗚咽と涙を抑えるようにタオルに顔を埋める。胸を締め付ける痛みと、溢れ出る感情に身を任せて泣き続けた。息苦しさが黒尾を襲うが、大きな、そして同時に小さな背中を、研磨は黙って擦る。
研磨は何も言わず黒尾の隣にしゃがみ込み、水面を眺める。今は只、思い切り泣けば良いと言うように。
『だって、クロは瀬戸の事─────ちゃんと分かってるじゃん』