第1章 瞳の先
「日向・・・?どうしたん、」
「エース・・・」
「へ?」
ぼうっとした日向が呟いた言葉に、私は間の抜けた言葉で返すことしか出来なかった。ほんの少し戸惑っていると、悲痛を帯びた田中先輩の声で意識を目の前の二人へ戻された。
「待てってばノヤっさぁん」
そんな田中先輩の言葉空しく、西谷先輩はズンズン進んでいき、体育館の扉に手をかけてしまう。西谷先輩は怒りの形相をこちらに向けて叫んだ。
「前にも言った通り!!旭さんが戻んないんなら俺も戻んねえ!!」
────────────バアンッッ!!!
勢い良く閉じられた扉は、西谷先輩と私達を遮った。先輩の去った体育館に、勢いの反動で少し開いた扉のカラーンという空しい音が響いた。扉の僅かな隙間から差し込む橙色の光がどこか嘲笑しているように感じられた。
「?? なんですか?」
影山さんは疑問符を浮かべて田中先輩に問い掛けた。田中先輩は大きく息を吐いて口を開いた。
「悪い・・・西谷とウチのエースの間には・・・・・・・
ちょっと問題が生じていてだな・・・・」
歯切れ悪く言葉を紡ぐ田中先輩の声はどこか悲壮感を帯びていた。田中先輩の顔を見詰めていると、不意に誰かに手を引かれた。
「ッ?! ひ、日向っ・・・・・?!」