第1章 瞳の先
「──────で」
ひょこっと西谷先輩がこちらにやって来た。その顔を見て一瞬ギョッとしてしまった。西谷先輩の左頬には平手打ちの跡がまざまざと刻まれていた。どんだけ強烈な一撃を打ったんだ清水先輩・・・・・。
「旭さんは??戻ってますか?」
『旭さん』。西谷先輩が口にした名前を脳内で反芻する。この場にはいないのかと軽く辺りを見回す。その時、スガ先輩の顔が曇ったのに気付いた。そのままスガ先輩は顔を床へと僅かに下げた。数秒の沈黙が体育館に行き渡る。その空気を静かに切り開いたのは、主将のたった一言だった。
「・・・・・・・・・いや」
「!!」
その言葉に西谷先輩の纏う空気がざわりと蠢いた様に感じた。思わず私の肩がビクッと跳ねる。肌がピリピリと西谷先輩の『怒り』を感じとる。西谷先輩の顔が苦々しく歪みわなわなと震える唇が言葉を吐いた。
「───────あの根性無しッ・・・・!!」
「!! こらノヤ!!エースをそんな風に言うん
じゃねぇ!」
「!」
怒りに満ちた一言だけを吐いた西谷先輩はすぐさま踵を返して出て行こうとした。その背中に田中先輩は叱責を飛ばした。が、日向は田中先輩の言葉に何故かピクリと反応した。それとは対照的にご立腹な西谷先輩は再び怒号を放つ。
「うるせえッ!!根性無しは根性無だ!!」
私は完全に置いてけぼり、いやここに居る一年生全員は置いてけぼりを食らっているようだ。影山さんもどこか戸惑っている様に見える。しかし日向はどこか嬉しそうに二人を見ていた。