第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
一人頭を抱えていると、軽い足音がこちらに近付いてくるのを感じた。誰かと思い顔を上げると、そこには女神が立っていた。
「伊鶴ちゃん?」
「あっ、潔子先輩っ!!」
朝方ぶりに出会ったその人は我らが潔子先輩だった。澄んだ輝く美しい瞳が眼鏡越しに私を数秒の間見詰めると、慌てた様子で私に駆け寄って来た。
先輩の手にしているドリンクボトルの入ったケースが乱暴に置かれ、ガチャンッと派手な音が立つ。
「どうしたのっ?もしかして体調悪くなっちゃったの?!」
「えっ?い、いえ全ぜ、」
「今先生達呼んで来るから!!」
「せ、先輩全然大丈夫なんで待ってください!!」
慌てて立ち上がり、走り出そうとする潔子先輩の手を掴んで引き止める。潔子先輩は目を見開き、キョトンとした顔で振り返る。
「え?違うの?」
「はい、違いますよ。ちょっと休憩しつつ考え事してただけですから」
「え、あ、そうなの?やだ、私てっきり…」
潔子先輩は顔を赤らめて目を伏せる。可愛過ぎでは???
「伊鶴ちゃんも片付け?」
「はい。ボトルを洗いに行くところだったんです」
「じゃあ、私も手伝うよ」
「え、でも潔子先輩もうボトル洗い終わっちゃって、」
「良いの。だって、今日……」
「?」
「伊鶴ちゃん居なくて、寂しかったから」
瀬戸伊鶴、逝去。
死因:潔子先輩