第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
コートでは、日向は奮闘していた。何度も打とうと飛び続けるが、ボールを返すだけで精一杯のようだ。
でも日向も、影山さんも、決して諦めていない。何故なら、影山さんは日向にトスを上げ続けているから。それは、日向を信じているという何よりの証拠だ。私はそれに、強く胸を締め付けられる。
再び影山さんがトスを上げた。日向はすかさずバッと飛び立つ。それを見逃さず、犬岡さんもブロックへ回る。日向は右腕をボールへと伸ばす。すると、日向は不意にクイッと右手を僅かに逸らした。───まるで、犬岡さんの手を掻い潜るかのように。そのまま瞬時に日向はボールを打った。
───────ドッ
ボールは、音駒のコートへと落下した。
ピッ!
審判は笛を吹き、手をスッと持ち上げる。
「あっーアウトかーっ!」
武田先生が残念そうに声を上げる。スガ先輩も惜しいという表情を浮かべる。
「……すげえ、すげえな!ショーヨー!!」
犬岡さんは感嘆と賞賛を日向へ投げ掛ける。しかし、日向の集中力と貪欲さは果てる事は無い。日向は、静かに呟いた。
「─────……もう一回」