第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
私は思わず目頭が熱くなり始める。だが、下唇を噛み締め、必死に堪える。
「すげえな…あの10番…」
猫又監督も、どこか夢現のように感嘆する。私は、すんと鼻を啜って平静を装う。
「当然です。日向は、決して諦めませんでしたから」
「本当になぁ!よくやったよあの10番!」
監督はニカッと歯を見せて笑った。私はコートに立つ日向と影山さんに目をやる。二人の真剣な顔を体育館の照明が照らす。
「それに、瀬戸ちゃんもホント凄い。瀬戸ちゃんはあれを予想してたんだろう?」
日向の考え。それは、ブロックを避けるスパイクだったのだ。でも、日向がそれをしようと考えたのは───影山さんのトスを信じていたから。正確で、真っ直ぐなトス。それは、日向に空中で余裕を与えてくれるのだ。
でも、それはお互いに信じ合っていなければ出来ないこと。
再び私の視界が霧がかかったように歪んでしまう。瞳から溢れ出そうとするそれを、私は必死に抑える。
「………本当に、良かったな。瀬戸ちゃん」
「っは、い……!」
猫又監督の優しい声に、私は堪えきれず俯いてしまう。髪の毛が垂れ下がり、私の顔を覆い隠してくれる。
良かった、これならみっともない顔を、誰にも見られなくて済む。