第1章 瞳の先
キュッ、キュッ……
静かな廊下に内履きの擦れる音が響く。今は放課後で部活に勤しむ時間の為、廊下を歩く生徒が少ない。後ろから女子の楽しそうな喋り声が響いてきた。振り返ると制服を纏っていた。今の女子は何処へ向かうんだろうか。確信出来るのは私が向かう場所とは違うということ。私の目指す場所は、
『第2体育館』
ほんの少し錆びた鉄の扉の前に立つ。ボールが床に当たる強い音が聞こえてくる。肩に掛けた鞄の紐をきつく握り締め、僅かに込み上げる不安を払おうとする。扉に手をかける。指先に鉄の冷たさを感じる。緊張を振り切るように扉を横に引く。
ガララララッ──────────!
体育館特融の匂いが鼻孔を擽る。照明が磨き上げられた体育館の床を照らす。扉の向こうには一人の少年がコートに立っていて、バレーボールを構えている途中だった。
まるで濡れているかの様な艶やかな黒髪に、全てを見据えた様な青みがかった黒く鋭い瞳が印象的だ。突っ立っているわけにもいかないだろうと思い、体育館に少しずつ足を進める。その人は値踏みするようにジッと私を睨みながらこちらに歩いてくる。
思わず肩が強張ってしまう。その人は眉根を寄せると一言言い放った。
「あんた誰」
「え、えと…1年2組、瀬戸伊鶴っ、です。このバレー部に、マネージャーとして、入部したいと思って来ました」
「……あっそ」
え、そ、それだけデスカ…この人苦手なタイプかもしれない。
端正な顔立ちではあるが不機嫌そうな雰囲気を纏っていて近寄りがたい。
そして何故か目の前の彼は話しかけるでもないのに私を見詰めている。な、何でだろうか。その時、垢抜けた快活な声が飛んでくる。
「あぁッ───────!!瀬戸───────ッッ!!」
とんでもなく大きな声に、私も目の前の彼も思わず肩が跳ねてしまった。目の前の彼はさらにわなわなと肩を震わせてバッと声のした方へ振り返る。
「日向ぁ!!お前うるせぇんだよ!!」
「ごめん影山!!」