第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
「瀬戸ちゃん大丈夫か?」
「は、はい。すみません…」
「どうした、具合悪いのか?」
犬岡さんは心配そうな表情で問い掛けた。名前の通り犬っぽくて癒されてる私、挙手しなさい。ハイ。
「お前が10番の速攻止めちゃってから動揺してんだよ」
「え、ええっ!!そうなのか瀬戸!!」
「え、え?!ああいえそんな!」
猫又監督、あなたホントに黒尾さんそっくりじゃないですか。何ですかその意地悪な笑みは。
「え~~何か凄いごめんな~~~……」
「そ、そんな……」
烏野側の方へ目を向ける。その先には、日向と影山さんが立っている。
「私はもう、心配してませんよ」
「「「「!!」」」」
「……どうしてだい?」
猫又監督は笑みを浮かべて私を見詰める。その頬には汗が伝っている。私は、焦点の合わない瞳で言葉を返す。
「あの速攻は日向が戦える、唯一で最強のものです。それを止められて、私は、日向が折れてしまわないかとても不安でした。でも今、日向はとても楽しんでいると思います」
あの日向の笑顔は、きっとそう思っていた証拠だろう。今思うと、初めからそんな心配なんてする必要なかった。たった一人でも、挫けずバレーをしてきた彼なんだから。
「見たこと無い敵を前にして、自分はどうするべきかを探し、そしてもっと強くなろうとしている。そして───日向はもう“答え”を見つけたみたいです」
「………瀬戸ちゃん、アンタも怖い子だよ」
猫又監督は畏怖するようにそう呟いた。
「えっ!!それ、一体どんななの!?」
監督とは対照的に、わくわくとした表情で問いただす犬岡さんの顔を見つめ返し、内緒話でもするかのように答える。
「それは、もうすぐ分かりますよ」