第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
何で、どうして笑っていられるのか。
日向の表情に、音駒の皆は驚愕を表すが、犬岡さんだけはわくわくしたように笑みを浮かべた。日向は、影山さんと向かい合い、何か言葉を交わしている。内容は聞き取れないが、どこか二人の表情は穏やかだ。
その後、試合は再び動き出す。
影山さんは再び糸の様に、真っ直ぐで正確なトスを上げる。それに向かって飛んでいく。また速攻を打つのかと見詰める。が、
日向は、ボールへと目を向けた。
そして次に、犬岡さんの手へと視線は移る。
「あっ、オアっ、ギャッ!!」
「!?」
日向は短い悲鳴を上げて落下し、尻餅を付いてしまった。犬岡さんは突然の事に目をパチクリとさせる。これは何か影山さんとの作戦なのかと思い、影山さんを見るが、彼も同じく驚いた表情だ。どうやら先程の会話は関係ないようだ。
「日向、トスを見た!!」
不意にスガ先輩の声が耳を打った。すると、鳥養コーチもたっ、たっ、タイム!!と慌てて審判へ叫ぶ。
各チームのメンバーはぞろぞろとコートから掃けていく。私は次々と音駒の皆へドリンクとタオルを渡しながら思考を巡らせる。
さっきのスガ先輩の言葉が引っかかり続けている。トスを、見た。いつも日向は目を瞑って速攻を打っていた。影山さんのトスを信頼しなくなったわけではないだろう。じゃあ何故か。いつもの速攻では通用しない。だから、何か変わろうとし、
─────ガコンッ
「瀬戸!?」
「あ、あ!すみません!」
犬岡さんの声に、私は取り落としてしまったドリンクを拾い、犬岡さんに謝りながら手渡した。私の心臓は、バクバクと煩わしい程脈を打つ。
分かった、そうか、そういうことだったのか。