第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
中学1年の頃から、日向は一人でバレーをしていた。やっと正式な部員が入ったのも日向が3年生になった時だった。
そして最初で最後の試合で完璧に止められ、打ちのめされた。そんな日向が、やっと手にした武器。唯一にして最強の武器。
それが────影山さんとの速攻。それなのに、それさえ止められてしまったのだ。
「そりゃあ、心配だろうなぁ。瀬戸ちゃんもバレー経験者なら分かるだろう。自分の攻撃が効かない、通用しない。
────気力を挫く、“人の壁”」
そう、私もよく知っている。打てども打てども壊せない。歯痒い思いがどうしようもなく苦しかったのを覚えている。それが、自身の唯一最強の攻撃が通用しなかった時ならば、どんな思いなのだろう。私は思わず顔を歪めて俯いた。一体今、どんな思いで彼は立っているんだ。
「打てば打っただけ、」
日向の心は、
「折れてい────」
不意に、猫又監督の言葉が止まった。何事かと猫又監督の顔を見やると、目を見開いて凝固している。その視線の先へ私をふっと瞳を向ける。その瞬間、私も固まった。
日向、笑ってる。