第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
「あ、スミマセン。私ちょっとハラキリして来ます」
「待て待て待て早まるんじゃない武士の魂今ちょっとペッしなさい」
黒尾さんに全力で止められ、泣く泣く思い留まった。ああ、またやっちまったぜチクショウもうどうしたら良いの。しかも、会ってまだ一日も経ってない音駒の前で、だ。
埋まりたいよネー。
「おい、瀬戸お前一体何者だよ。ただのマネージャーじゃないだろ」
「は、え、えぇ? 普通のマネージャーです」
「嘘吐け。じゃあ何で気付いたんだよ。少なくともバレーはやってたな」
黒尾さんは決め付けるように言い切った。うんまあ当たってますが。
「中学ん時に部活で齧ってただけなんだとよ。すげーなぁ?」
「へえ~~~…部活で齧ってただけ、か。すげーっスねぇ?」
猫又監督の告げ口に、黒尾さんは意地の悪そうな笑みを浮かべる。この二人、同じ表情になっている。実は似た者同士だったのかよ。
「ホントにすげえなあ瀬戸!俺そんな細かく気付くと思って無かったぞ!!」
「俺もっス!!瀬戸すげー!!」
夜久さんと犬岡さんは感動したように私を見詰める。おおふ。
そんな澄んだ瞳で見詰められると心が痛いです…。
実際、私は黒尾さんに嘘を吐いた。
隠し事をしている。音駒の皆だけじゃなく、烏野の皆にも。それも一つだけじゃない。幾つも幾つも。当然心に靄は掛かる。だが話せるわけない。
───否、話すわけにいかない。
話せば間違いなく私は醜態を晒す。加えて必ず彼らにも不愉快な思いをさせる事になる。そんなこと耐えられる筈ない。