第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
孤爪さんの目が瞬く。黒尾さんの顔から笑みが消え去る。皆の視線が私に集っているが、恥ずかしいという思いは不思議と起きなかった。否、私の心にそんな感情を起こす隙間など無いからだ。
「あの試合前の暗示の意味も……皆さんの強みも、やっと分かったんです」
私は孤爪さんを真っ直ぐ見据えたまま、言葉を滑らせた。
「孤爪さんが、音駒の“脳”だったんですね」
「なん、で」
呆然としたように孤爪さんは呟いた。無意識の内に口からは言葉が漏れ出していく。
「最初は、孤爪さんの目が、まるで、烏野の皆を観察しているみたいに見えてただけなんです。でも、今、やっと、分かったんです…。
あれは、皆の動きを見て、音駒の皆さんがどう動くべきかを見定める為だった。孤爪さんの並外れた観察力と、予測力。これを充分に発揮するため、他の皆さんがしっかりと動く必要がある。これが、試合前の『暗示』の意味…」
時間が停止したかのように、誰も動かない。只、それを否定するかのように黒尾さんの額から汗が滑り落ちた。
私はその光景を一瞥すると、視線を床に落とし、再び口を開いた。