第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
福永さんの隣には、孤爪さんが俯きがちに立っていた。少し長めの髪が、顔を僅かに覆い隠していて表情は分かりにくいが、どうやら緊張しているようだ。
何だか親近感を感じてしまう。私もバリバリ緊張してるし。孤爪さんはちらりと私に視線を寄こすと、遠慮がちに口を開く。
「2年、孤爪研磨。セッター、やってる」
「よろしくお願いします…あの、日向から、孤爪さんの事、少し聞いています」
「しょ、翔陽から…?」
孤爪さんの瞳が僅かに輝いたように感じる。やっぱり嬉しいのだろうか。孤爪さんは少し日向に心を開いてるところもあるのかもしれ ない。まぁあの猛進コミュニケーション受けたら心開いちゃいますよね。経験者は語るである。
「はい。嬉しそうに話してました」
「そ、そうなんだ……」
孤爪さんは口をもごもごして気恥ずかしそうにする。可愛いなーおい。口元が緩みそうなのを必死に堪えて真顔を貫く。危ない。早くも引かれてスピード辞職喰らうとこだった。
「ん?おい、山本どこ行った?」
「え?あれホントだ。いないじゃんか」
突然黒尾さんが疑問を口にする。それに続いて夜久さんも目を瞬かせ、周囲を見回す。『山本』というのは、あのモヒカンさんのことなのだろうか。そういえば彼の姿をさっきから見ていない気がする。音駒側のコートに着いた時には居た筈なのに。どこ行っちゃったんだ。モヒカンさんカムバック。
「猛虎さんなら犬岡の後ろでーす」
(あっ馬鹿言うなっ!!)
孤爪さんの隣に立つ人が挙手をし 宣言する。姿は見えないが、彼に食い気味に突っかかるモヒカンさんの声がした。
真ん中で分けた前髪が印象的なその彼は、隣に立つ茶髪の人の後ろに向かって話しかける。恐らく茶髪の人が犬岡さんだろう。
あ、あの二人『ハーゲンダッツ!』って喜んでた二人じゃんか。何か雰囲気的にも癒し系同士でぴったりのコンビだな。