第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
「な、何ですか黒尾さん」
「ん~~?なーんでもなーい」
「言ってくださいよ、気になります」
「言いませーん。ほら、もう着くぞー」
前方には赤いユニフォームを纏った音駒の人達がアップを取っていた。見知らぬ人達に、緊張が高まるのを感じる。それを見透かしてか、黒尾さんが声を掛けてくる。
「大丈夫だ。良い奴らばっかだから心配すんなって。何かありゃサポートすっし」
「……はい、ありがとうございます」
そう答えると、黒尾さんはニッと笑うと、私より数歩先に進み出て、音駒の人達に声を掛けた。
「集合ッ!!」
「「「「ぁース!!!」」」」
すぐさま音駒の人達は黒尾さんの周囲へと集まる。黒尾さんの隣には年配の監督らしき人と、若い男の人が控えている。黒尾さんはくるりとこちらへ振り返ると、ニシシと笑って手招きする。
「ほら、こっち来いって」
「は、はい」
私は黒尾さんの隣へと進み出る。瞬く間に音駒の人達の視線が集まってくる。心臓の鼓動は煩く音を立て始める。ああもう過呼吸が出そう。手が老人性の震えみたいになってんですけど。
「今日一日俺らのマネになってくれる瀬戸だ。瀬戸、自己紹介」
「…」
「? 瀬戸?」
「…」
「おーい?聞いてんのかー?」
「…へっ?!」
「ブッハッッ!!お前フリーズしてたのかよッ!!」
緊張で頭の中が真っ白になっていた私に対し、黒尾さんはゲラゲラと腹を抱えて笑い始める。恥ずか死にたいんですけど。
「ちょっとクロ。やめなよ、みっともないし失礼だし煩いし下品だし」
「おーっと研磨クン辛辣ー」
孤爪さんは眉根を顰め、黒尾さんを叱ると同時に悪口で畳み掛ける。対する黒尾さんも慣れた口調でツッコミを入れた。孤爪さん、辛辣だが良い人…。
「ほら、改めてじこしょーかい」
「は、はい…。か、烏野一年、マネージャーの瀬戸伊鶴です。よろしくお願いします…」
「「「「しアース!!!」」」」
音駒の人達は一斉に一礼してくれる。私も慌てて頭を下げる。