第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
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何でだよ、何でそうなるんだよ。
「実はですね、おたくの瀬戸さんを今日一日お貸しして欲しいんです」
音駒の主将は、明らかな作り上げた笑みを浮かべてそう言った。ざわりと胸の内が騒いだ。瀬戸は驚いたように音駒の主将を見上げていた。
当然だ。男が苦手な上に、初対面ばかりのチームのマネージャーを一人でやるなんて不安でしかないだろう。キャプテンは困惑したように何故だと問い掛ければ、音駒の主将は余裕綽々とペラペラ弁舌を揮う。嘘を吐け。それは只の建前でしかないのが見え見えだ。目的は只一つ。
瀬戸。
不意に日向が大声を張り上げ、音駒の主将に反発した。しかし、音駒の主将は何故か愉快そうに目を細める。日向が抗議を始めると、続いて田中さんと西谷さんも威嚇する。そうすると、音駒の主将は肩を震わせて笑い出す。俯いているが、その顔から張りぼての笑みが消え、愉悦の滲む緩んだ笑みが見えた。しかしすぐに偽の顔を作り、やんわりと対応してみせる。
「その点に関してはご心配なく。すでに音駒の監督にも話していて、烏野の先生方にも了承を貰っていますよ」
皆が愕然とする中、俺は奥歯をぎりりと噛み締める。ホラ見ろ。初めから俺達の事情も気持ちもどうだって良い。そこまでしているのが何よりの証拠だ。最初から瀬戸を連れて行くつもりしかない。沈黙が流れる中、静かに奴は口を開いた。