第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
突然の大声に、私と主将は肩がびくりと撥ねる。黒尾さんは愉快そうに声を零した。声の主、日向は、主将の陰に隠れるように顔だけを出して抗議を申し立てる。
「き、気持ちは分からないでもないっ!ですっ!で、でも!いくら主将だからって、独断で瀬戸を連れてくなんて許されないんだからなぁッ!!」
「そーだそーだ!!事務所通してからだかんなぁ!!」
「俺らの女神を持ってくつもりならそれなりの覚悟は出来てんだろうなぁ?!」
日向に続いてた中先輩と西谷先輩も声を上げる。思わず私は顔が熱くなるのを感じた。この部に入ってから何回も照れさせられてるんですけど。これからもこういう事言われるのかもしれないけど、絶対慣れる気がしない。てか田中先輩、事務所て。
「ブッハ!クッ、ククッ!なーるほどなぁ。へえ……」
「く、黒尾さん……?」
黒尾さんは吹き出すと、口元を押さえ、静かに呟いた。私は黒尾さんの言葉の意図を理解する事は出来なかった。黒尾さんは口元を覆っていた手を離すと、また張りぼての笑顔を作る。
「その点に関してはご心配なく。すでに音駒の監督にも話していて、烏野の先生方にも了承を貰っていますよ」
「「「?!」」」
烏野の皆の目が見開かれる。まさかそこまでしているとは私も思っていなかった。黒尾さんは表情を崩す事なく、口を開いた。
「何も問題はないですよね。それでは────」
烏野の皆の表情に緊張が走った。私は、ぞっと肌が粟立つのを感じた。
「彼女、お借りしますよ」
そう言った瞬間、黒尾さんの張りぼての笑顔が崩壊し、愉悦に満ちた本来の笑顔が現れる。そして、猫の様な目がぬめりと光った。
「そんじゃ、行くぞ瀬戸ー」
「え、あ、ちょっと!」
黒尾さんは有無を言わさず私の手首を掴んで引いていく。慌てて振り返ると、烏野の皆はまだ批判の声を上げている。その中に、影山さんの姿を見つけた。
彼のその顔は─────酷く不機嫌そうだった。