第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
「あの、何か御用ですか?」
おずおずと黒尾さんに問い掛ける。黒尾さんはわざわざ烏野側のコートまで出向いてくれているのだ。何か重大な用事なのかと心配になる。
「ん、そうそう用事があるんだよ。まず、えーっとー、そっちの眼鏡のマネさん」
「はい、何ですか?」
潔子先輩は目をパチクリとさせて顔を上げる。声を掛けられるとは思っていなかったのだろう。まさか潔子先輩をナンパしに来たのだろうか。だとしたら私の脚が火を噴くことになるぞコラ。黒尾さんはあの張り付いた笑みを浮かべて口を開いた。
「あのですね、今日一日1人で仕事するとかって、キツいですか?」
「えっ?それはどういう、」
「どういう意味ですか?音駒の主将さん」
潔子先輩の言葉を引き継いだのは、我らがファザーである主将だった。
気付けば烏野の皆がこちらに瞳を向けていた。その表情はどこか警戒心が垣間見えている。思わず緊張の糸がピンと張られる。主将の顔には、先程と同じ黒い笑顔が浮かんでいる。黒尾さんはその笑顔に物怖じする事なく、張りぼての笑顔のまま答えを口にする。
「実はですね、おたくの瀬戸さんを今日一日お貸しして欲しいんです」
「「「「はあっ??!!」」」」
黒尾さんのさらりと言い放った言葉に、烏野の皆は衝撃を受ける。言わずもがな私もデットボール級の黒尾さんの発言にポカンと口をあける事しか出来なかった。
何?誰が?私が?今日一日音駒のマネって?はい?
「な、何故そんなことに?」
主将は僅かに震える声で問い掛けた。主将も突然の事態に動揺を隠せないようだ。対峙する黒尾さんは余裕綽々と言葉を紡ぐ。
「前々から音駒のメンバー内で、マネジャーが欲しいという意見が出ているのですが、中々踏み切れずにいたんです。それで今回、烏野のほうにマネージャーの方が2人いるということなので、今日一日音駒のマネをしてもらい、ウチにもマネージャ入れるかどうかを本格的に検討する指針になって頂こうという話になったんです」
その言葉に、主将は当惑したような顔になる。断るような理由が見つからないのだろう。僅かな沈黙が辺りを漂う。と、不意に主将の背後から声が飛んでくる。
「だ、ダメだあああああああああああああ!!」
「「!?」」
「おぉっ?」