第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
* * *
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
こんな腹黒い笑顔初めて見たわ。
黒尾さんと主将はお互い朗らかな笑顔を浮かべて握手を交わしているが、まるで探り合っているかの様な雰囲気が滲み出ている。少し経つと、ふっと二人の繋いでいた手が離れていく。
「「行くぞ」」
両校の主将が一声上げると、その大きな背中に皆が付いていく。その光景を目にして、胸の奥がまたざわりと騒いだ。ああ、まただ。自身の感情に苛立ちを覚える。煩く騒ぐそれを必死に押し返す。
────うるさいうるさい、頼むから引っ込んでいてくれ。
「伊鶴ちゃん、大丈夫?顔色良くないよ」
「え、あっ、大丈夫ですよ!すみません!」
「無理なんてしないでね。伊鶴ちゃんがツライのは嫌だから」
はい女神ー。紛うことなき女神でーすこのお方はー。
「大丈夫ですよ、ちょっと考え事してただけですから」
「そう?これからアップだけど、本当に辛くなったら言ってね?」
「はい!ありがとうございま、」
「瀬戸」
低い声音が耳を打った。その声の方向へ、私と潔子先輩は目を向ける。
「黒尾さん…!」
「よっす。さっきぶりー」
「そ、そうですね……」
そこには赤いユニフォームを纏った黒尾さんの姿があった。半袖から筋肉の付いた腕が重そうに下がっている。ひらひらと手を振る片手も、綺麗に筋が浮き出ていて大人の雰囲気を醸し出す。何なんですかねぇ。