第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
「そ、れは、ちょっと…すみません」
「嫌かー。まぁ嫌ならしょうがねぇわな」
「あっ嫌とかじゃないんですっ、嫌じゃなくて、その…」
もごもごと口ごもる私に、黒尾さんは小首を傾げた。
「男の人を下の名前で呼んだことなくて、それで、その、恥ずかしい、んです」
「…」
語尾は完全に呟き程に小さくなっていき、視線も地面に向いていた。ばつが悪くなり、前髪をギュっと引っ張る。
「お、おぉ。そうか、うん、そうか…。なら苗字で全然良い。寧ろ苗字から名前になった時のギャップが良いと思えてき、あっ、ああいや何でもない」
「は、はぁ…」
何か新たなギャップ萌えに目覚めた事をさらりと暴露されてしまった。忘れよう早急に。ていうか忘れたいしそもそも聞きたくなかった。
「あーうん。その、まぁ…気ぃ許したら下の名前で呼んでくれ。その方が嬉しい」
黒尾さんはばつが悪いのか苦笑を浮かべ、ポリポリと頬を掻きながら伝えてきた。黒尾さんの是非ともという話なので、その内検討しようと思う。
「まあ、気が向いたらということで」
「そういうことで」
そんな会話を広げた後、ふと思い出したように黒尾さんがハッキリとしない物言いで口を開いた。
「あー…それとさ…」
「はい?」
「さっきの…ギャップがどうとかの発言…」
「…」
「忘れてくれ、頼む」
絶対いやデース。