第22章 ✝バイト戦記✝Ⅲ
栞「もしいじめを我慢すれば…
沙織ちゃんは絶対後悔するよ。
それは、僕らも同じだから」
沙「!…」
栞「沙織ちゃんひとりが
ずっと苦しんでて、僕らは
阿呆面さげて君の前になんて
顔出しに行けるわけないじゃん?
皆そう思ってるよ、ねぇ?」
翠が、強く頷いた。
刈真は、私を見て、またすぐに逸らす。
栞鳳はふたりの反応を
確かめると、口角をにっとあげた。
栞「いい?沙織ちゃん、
よーく聞いてね?」
栞「この世には
皆幸せになれる選択なんて存在しない」
沙「え…っ」
思ってもみなかったことを言われ、
私はその場で固まった。
開いた口がふさがらない。
栞「沙織ちゃんは本当に
真っ白、初々しい真実。
でもね、僕らはそんなに白くない。
皆、色があるんだ。
広い心をもった青色。
温かく包んでくれる桃色。
嫉妬に溺れた汚い朱色。
真っ黒な偽りの心。
皆みんな、色は違うんだ。
隠してる色は、何色かわからない。
正義があって、悪があって、
正義にとっちゃ、悪は悪者。
悪にとっちゃ、正義は悪者。
違うんだ、考え方は。
この世に、全人類が
幸せになれる選択なんてない、
誰かが不幸にならなきゃ、
困っている誰かは救えないんだ。
それは、君もわかってることでしょう?」
…何も言えない。
声に出そうとしても
何を言えばいいのかわからない。
只、栞鳳の言葉ひとつひとつが
胸に響いて、刺さって、苦しくなる。
私は、
目を瞑って顔を伏せた。