第22章 ✝バイト戦記✝Ⅲ
栞「…刈真君、焦んないでよ。
僕にはその気は全くないさ。
あったとしたら、
それはもう昔の僕だね、」
栞鳳は笑ったまま、
刈真に話しかける。
刈真は何も言わずに
ただじっと栞鳳を見つめていた。
…あんな風に怒鳴る刈真君を
見たのは久しぶりだった。
それは、何かを守るために
真っ直ぐに進む視線。瞳。
彼の銀色は、
いつもとは違い一段と輝いていた。
栞「だーけどさ、沙織ちゃん、」
沙「!」
私は栞鳳に視線を移す。
栞鳳には、先程までの可笑し笑いなど
まるで最初からなかったかのように、
真剣な表情をしていた。
思わず、息を呑む。
私の乾いた瞳は
彼から目を離すことを拒んでいた。
栞「もし、もしね、
沙織ちゃんが今回のことを
何一つ言わずにいたとするよ?
そしたら、君はどうなるの?」
沙「どうなる…」
途中で、声が詰まった。
…私は、どうなる?
もし、ひとりで
このいじめを我慢していれば
私は…どうなるのだろう?
いや、そんなの、
最初からわかっているんだ。
そうしたら…私は…
『 壊れてしまう 』
私がずっと知っていたこと。
なのに、どうして
とぼけたふりをしたのだろうか?
栞「今、
きっと答えがわかったよね。」
沙「…」
何も言えなかった。