第22章 ✝バイト戦記✝Ⅲ
奈菜美は
首筋に顔を埋めたまま動かない。
(…気持ち悪い…っ)
僕は顔をしかめたまま
思いっきり手に力を込めて
彼女の手を押しのけた。
フワッと奈菜美の体が
宙に浮き、
そのままカーペットの床へと
倒れていった。
少々女性に対しては
乱暴な行為をしたかもしれない。
だが、こんなことをされちゃあ
僕だって腹の虫が収まらないんだ。
やっと訪れた
少しの安心に吐息を漏らした。
一瞬顔を歪め、そっと首筋に
手を当てる。
傷になっているのか
触れるたびにチクッと痛みが。
刈「…。」
奈菜美はゆっくりと
起き上がる。
刈「こんなこともうしないでください。」
奈「…。」
彼女は
酷く瞳が怒りに燃えたように
歯を食いしばっていた。
僕は
彼女に手を差し伸べた。
刈「先程までのことは忘れて。
さあ、仕事に戻りましょう。」
奈「…。ごめん…」
刈「大丈夫ですよ。」
僕は微笑みかけた。
彼女は僕の手をとり立ち上がる。
奈「沙織ちゃんは許さないけどね。」
刈「…え?」
奈菜美は芝居掛かった
笑みを浮かべると、僕を
残して先に部屋を出て行ってしまった。
刈「…沙織…?」
僕は胸騒ぎがした。
こうして
波乱のバイト一日目は幕を閉じたのでした。