第14章 刈真の過去
刈真が家に戻ってから、
とてつもない変化が起きた。
刈真が、自分で勉強をしているのだ。
わからない言葉の方が多いのに。
わからない字の方が多いのに。
わからない知識の方が多いのに。
絶対に刈真の頭脳では理解できないことを
自力で無理やり理解しようとしたのだ。
ずっとずっと。
夜は眠りもせず、夢中で机にひっついていた。
はなそうとしても決して離さない。
声を掛けても、
「いい子になるからいい子になるから…」
の繰り返しを気味の悪い程つぶやいてくるだけ。
雫は、そんな刈真を見て、
可哀想だと父親に相談した。
すると、父親は言う。
「刈真はお前と同じように愛されたかったんだよ」
雫はいつもいつも母親に愛されていた。
それを刈真はいつもいつも指を咥えて見ていた。
どんなに辛かったか。
どんなに苦しかったか。
全ての憎しみや妬みも祓うように、
刈真は分かりもしない辞書を引き、
漢字を読み、書き、問題を解き、
必死で努力したのだ。
必死で
母 に認めてもらおうとしたのだ。
「ママ…ママ…」
刈真は、母親・愛
という漢字をノートに書き、涙を流していた。