第14章 刈真の過去
それからしばらく。
次第に彼女は、
頭の優れている雫と
頭の衰えている刈真を、比べるようになった。
その度に彼女は刈真を叱り、
彼の目の前では雫のことをとても甘やかした。
刈真はこのときに
自分は母親に愛されてなどいなかったのだ
ということに気づいた。
その瞬間。彼の心は暗闇に包まれる。
同時に、隙間風のような寂しさが心を通るようだった。
刈真はそれでも
まだ母親はきっと愛してくれる と、
毎日毎日話しかけた。
勉強も自主的に学習し、
少しだけだが、ひらがなをかけるようにもなった。
「雫の時よりもずっと覚えるのが遅いのね。」
練習の成果を見せたときの彼女の反応は
雫と比べただけの嫌味だった。
「本当あんたは何やってもダメねっ!!!??」
「どうしてこんなこともできないのぉっ!?」
「悪い子は大っ嫌い!!」
「雫は本当にいい子ね。」
「明日お父さんと三人で映画でも見に行きましょうか。」
「あの子とは大違いね。」
日に日に、刈真と雫に対する感情は異なっていく。