第14章 刈真の過去
その日から、母親である彼女には、
刈真に愛情を注ぐということができないでいた。
彼女は、人よりも
上にたつことを教え込まれた、
厳しい家庭のなかで育った。
そのおかげで、真面目な性格になり、
何もかもが優れていて、実に完璧な人間だった。
そんな彼女だから、
人より何倍も衰えている
我が子のことが許せなかったのだ。
「あ…ママ、これぇ…あげうっ」
机に手をあて、テレビを見ていた彼女に
刈真は緑色の折り鶴を渡した。
上手に折れていないが
きっと雫にでも教わったのだろう。
刈真は可愛らしいおっとりとした
その銀色の瞳で彼女を見つめた。
だが、彼女にはその瞳も表情も
全く可愛らしく思えず、むしろ
憎たらしい感情しか起きあがらなかった。
彼女は折り鶴をもらった後、
それを刈真の目の前でビリビリに破いた。
「雫の方が上手く折れるわよ。」
「あっぅ…」
それをみた刈真は何を思ったのだろう。
影から見つめていた雫は、
彼と破られた折り鶴を見つめることしかできなかった。
「刈真、これからお母さんは
お姉ちゃんのお勉強を見るから、
あんたはあっちで勝手に遊んでいなさい。」
「…う…。わかったっ!」
刈真は、彼女の行動を
自分に対する愛であると考えていたらしい。