第14章 刈真の過去

翠「だけど、刈真君は全然頭もいいし、
　　アタシや他の人よりも大人びて見えるよ？」


翠の言葉に自分も頷く。
雫は　少し寂しそうに顔を伏せた。


雫「今は…大丈夫だけど…
　　昔は・・・・・・・・・・・」

　「昔は…酷かったんです。」


言いにくい発言をした後の顔は、
なんともいえぬ悲しみに誘われている。

それを見つめながら、
妙に痛ましい気持ちになってしまった。


刈真は発達障害。

それを克復するには
どれほどの努力をしなければいけないのか。
そんなことは、考えなくても分かる。


只々、私は憐憫の情を覚える。



翠も、同情したように表情に影が見えていた。
だが、どうして刈真は
″愛されなかった子″なのだろうか。

私は、その時何かの違和感をもった。

雫に聞こうと思っていた言葉が、
急に喉に絡まって出てこようとしない。


（聞いちゃダメなの）


そんな事が頭によぎった。

だが、そんなの私の腹の虫がおさまらない。
聞いてはダメなんだ。でも、
彼が味わってきた苦しみとは何だったのか。

私は彼を知りたい。


知ったあとには、前よりも
別の感情が生まれるかも知れない。


沙「話してくれませんか…？











　　刈真君の過去を。」



音のない空間に響いた声は、
確かに三人の耳に届いていた。