第11章 初めてのお出かけ
優一「どうだったって…。」
翠の質問に優一は口をごもっとさせる。
翠「友達 ってものがいなかったんだよ。」
優一「・・・・。」
翠は一瞬悲しい表情をしたあと、
しみじみと低い声で語り始めた。
翠「あの子はなんにもなかったの。
私達が普通に持っていたものをなんにも。
むしろ持つことさえ許されていなかった。
あの美紀達のグループによってね。」
優「ああ…わかるよ…。」
優一は静かに呟くと、沙織達の方をそっと見る。
翠「いま、あの子はああやって笑えてる。
でも、昔はあんな表情いっさい
見せたことなかった。
あの子には何人も
予備の人間がいる訳じゃないの。
沙織には、絶対に刈真君しかダメなの。」
優「どうして?」
翠「 彼が彼女の心にずっと寄り添っていたから。」
優「!!!っ。」
翠はさらに曇った表情で語り始める。
翠「私達は、沙織がいじめられてる時、
ずっと見て見ぬふりをしていたの、憶えている?
皆、自分がいじめられないために必死だった。
それで、刈真君がきた日、沙織は
大河に胸ぐらをつかまれていたでしょう。
あの時、確かに聞こえたの。」
優「…? なんて…?」