第6章 噂の二人
「……………」
「暴力は良くない。言葉でもな。無闇に人を傷つける様な言動はするな。注意だけじゃわからないなら、大事にするぞ」
「っ…………!」
「二度とするんじゃない」
「……………!」
紅林の威圧感に怯えた様に、女子生徒は逃げて行った。
まるで嵐が去ったみたい。夢は、思い出したように息を吐いた。
(先生が来なかったら…)
そう思うとぞっとした。
「先生、ありがとうございました!」
「ああ…たまたま通りかかって良かったよ」
そこまで言って紅林は、ふいに夢をじっと見た。
「春川…だっけ?」
「あ…はい」
夢はあまり保健室には行かないから、知られていないと思ったが意外と名前は知っていたみたいだ。
「しばらくは気をつけた方がいいな…。最近変な噂が広まっているから」
「はい…」
先生の耳にも入っているのか…。
思ったより噂の影響は、大きいみたいだ。
「…と。そろそろ保健室に戻る。何かあったら、ちゃんと周りの人間に言うんだぞ」
「はい。ありがとうございました」
立ち去る紅林に、お辞儀をする。
(私も教室戻ろう)
夢もその場から離れた。
「夢!大丈夫だった?」
「上級生に呼び出されたんでしょ?呼び出しとか怖くない?やばくない?」
教室に戻るなり、二人の友人に心配のあまりか二人同時に詰め寄られる。
「だっ大丈夫だから、二人共落ち着いて!」
なんとか宥め様と試みるが、二人の興奮はなかなか覚めなかった。
「夢ちゃん、今日何かあった?」
部活が終わり、帰る支度をしていた時に美月に尋ねられた。
言うべきか…。
(でも、上手く言えない気がするし、美月先輩に迷惑はかけたくないし…)
変な言い方をしてこじれるのも怖い。
(まさか、本当にあの先輩が美月先輩の友達じゃない…よね?)
名前を知らないから確認の仕様がない。
足らない頭で考えた結果…
「いえ。特に何もないですよ!?」
ヤバい。
声が上擦った…。
慣れない事って、するものじゃないって本当だね…。
夢は心の中で、こっそり泣いた。