第6章 噂の二人
「っ……」
夢が出ていくのを見送った後、ひどく身体が重くて横になる。
紅林は、ベッドに腰をかけ美月を見下ろす。
美月の身体を動かし、かけ布団をかけた。
瞼が重く閉じられている。額に汗が浮かんでいた。そっとその額に手を当てた。
「…やっぱり…」
静かに口を開く。
返事をする者はいない。
ただ、弱っている美月を見つめていた。
「はぁ…」
(…美月先輩、大丈夫かな…)
夢はうつ向いて廊下を歩いていた。初めて美月のあんな姿を見て、心配で堪らなかった。
「…あれ?」
「…あ」
白河と出くわした。
気まずさを思い出した。
「確か…春川さんだっけ?」
「あ…はい」
「青野見なかった?」
「美月先輩は…」
夢のしょんぼりした姿に察した白河は、夢の言葉を遮った。
「保健室か…」
「はい…。美月先輩、すごく顔色悪かったです…」
「朝から酷かったからね…」
朝から…。
美月先輩…。
酷い内容の噂を思い出し、夢は苦しくなった。
なぜ、あそこまで美月先輩を酷く言われなければいけないのか。
「今、流れてる噂聞いてる?」
「はい…」
「それ、信じてる?」
首を振る。
「うん。そうしてあげて」
こくんと頷く。
「ん。ねぇ、後で会える?放課後図書室で」
突然の誘いにドキリとして、つい反射的に答えた。「あ、はい…」
「あ…部活あるんだっけ?」
「あっ、はい。でも今日は自由参加ですし…」
それに家でも文集のための原稿は書いている。締切は、来週までだからそれまでに終わるだろう。
「そう。じゃ待ってる」
「はっ…はい」
(な…なんだろう?)
そういえば図書室に、久々に行くな…
ふいに美月が浮かぶ。
(…放課後までに、美月先輩、元気になるといいなぁ…)
なんとなく難しく感じる。
ぐるぐるする頭で、放課後まで過ごした。