第6章 噂の二人
保健室に、似つかわしくない声量と態度で、その生徒はペラペラと喋っていた。
「でね!あの二人もうやったみたいなんだって!」
「……………」
「あいつら真面目なフリして、やるよね〜」
「……………」
「そういや、あいつ最近よくここに来るんでしょ?紅っちあいつに迫られてない?」
紅っちとは、彼女が勝手に付けた彼のあだ名だった。
「あいつヤリマンだって噂もあるんだよ〜?エンコーもしてそうだよね〜」
「……………遠野」
やっと、黙っていた紅林が反応して、彼女のテンションはMAXになった。
「なになに〜?」
嬉しそうに紅林の腕に絡みついた。
その腕を静かに離すと、彼女はふてくされた。
「ここはそんな話をする所じゃない。体調が悪いなら別だが、そうじゃないならさっさと帰りなさい」
「え〜、先生は体だけじゃなくてぇ、生徒の悩み聞いてくれるんでしょ〜?何でそんな事言うの?」
媚びる様な仕草をする。
紅林の内心は、どす黒いものでいっぱいだった。
勝手な事を言う…。
彼女らにしてみれば、そんな少し考えれば嘘だとわかる噂は、日常の中の刺激でしかない。だから、事実かどうかなんてどうでもいいのだ。その事が、腹立たしくて仕方なかった。
「今のは君の悩みか?違うだろ。それに、さっきの噂は事実とは限らないだろう。あまりそうゆう事を口走るのもどうかと思う」
「なに?先生…あいつ庇うの?」
「それ以前に、酷すぎる内容だと思う。いやがらせにも度がすぎる」
紅林の言葉にムッとする。
「先生…」
遠野は紅林に抱きついた。
「私達もしない?あいつに先越されたけどさ…」
「何を?」
紅林の言葉にクスッと笑う。
「セ・ッ・ク・ス」
紅林の眼差しは冷たい。彼女はそれに気づいていない。
キスをしようと目を閉じて、顔を近づける。
紅林の嫌悪感はMAXになった。
ガラッ
「失礼します」
「っ!」
突然の来訪者に、彼女は思わず後退った。
「白河…」
邪魔をされた怨みで、来訪者を睨み付ける。白河は涼しげな顔で、つまらなそうに彼女を一瞥した。
「先生、のど飴ありませんか?飴じゃなくても、それ系のあると助かるんですけど」
「ああ、あるよ」