第9章 番外編 赤葦side
「人の気持ちはもう一度手に入れられると思いますよ、絶対」
「なんでわかるんだよ」
「経験です」
「なんだよ経験って。赤葦おまえ、誰かのこと好……」
彼女、確定。
でも気づいたふりをしてはいけない。
「なんですか?」
「な、なんでもねぇよっ!」
「ともかく、人の気持ちは変わりやすいですから」
「……でも」
「木兎さんはかっこいいんですから、靡かない人なんていないと思いますけど」
「……だ、よな、ぁ……?」
「一度ダメでも木兎さんなら絶対大丈夫ですよ。全国で5本の指に入るエースなんだし」
バレーと恋愛は全く関係ないけど、この際はどうでもいい。
とにかくこの場でしょぼくれモードから脱出してもらわないと。
「きっと今頃相手も木兎さんのこと考えてると思いますよ」
「……だよなぁ」
「そうです」
「そうだよなっ!」
「木兎さんほどカッコいい男いないですから」
「だよな~、俺もそう思ってたんだよっ。あんないつも寝癖ついた髪してやらしいブロックしてくる男になんかとられてたまるかってんだ!」
寝癖? やらしいブロック……?
それは、もしかして音駒の……?
……そこはツッコむまい。
話をあわせるに限る。
「ですよね」
「おっし、元気復活!」
ちょろい……でもよかった。
これで明後日の練習試合は大丈夫だ。
「おい、つかなに片づけてんだよ、赤葦!」
え……?
「ほらほら、早くあげろよ、あと50本はやるし」
「え、でも……」
「ようやくおまえの捻挫が治ったんだから、練習できなかった分挽回しろよ!」
「……あ、はい」
回復、早すぎ。
外しかけていたネットをまたかけ始める。
「ちょい待ってろ」
木兎さんはエアスイングしながらタオルと一緒に置いてあったスマホを強打で打ち始める。
満面の笑み。
自信オーラが戻ってる。
彼女にメール?
一度フラれてるなら、もう絶対ダメだと思うけど。
特にライバルがあの策士の黒尾さんなら。
……でもそれは、言わない。
思ったことは言わず、木兎さんの望み通りの答えをあげる。
それでエースが120%の力を発揮するなら安いものだ。
『セッターは、一歩控えて、尻拭い』
あ、なんかいい感じにまとまった。
次の文化祭のときの川柳大会に出してみるか……