第9章 番外編 赤葦side
「なあ、一度なくしたらもう二度と手に入らないものってなんだと思う?」
「人の気持ち……じゃないですか」
「っ……!」
やっぱりそうか……と小さく呟いた木兎さんの背中がまるくなる。
あ、ヘコこんでる。
やっぱり、原因はその彼女か……
誰だ?
木兎さんはモテる。
自分でもそれをわかってる。
下半身の節操もないし、それを隠すこともない。
なんでもあけすけな人だ。
でも……
自分が本気で好きな相手のことだけは絶対誰にも漏らさない。
それが木兎さんだ。
片づけをしながら、計算する。
明後日は井闥山と練習試合だ。
向こうにはあのサクサがいる。
負けるわけにはいかない。
でも、木兎さんが明後日までに立ち直る可能性は……
「木兎さん、靴の紐、ほどけてます」
「お?……ああ……」
……限りなく低そうだ。
なら、無理矢理通常運転に戻ってもうらしかない。
「さっきの話ですけど」
「ぁ?」
ネットを外しながら、さりげなく丸まった背中に言う。
「二度と手に入らないものなんてないんじゃないですか?」
「……」
「なんでも頑張れば手に入ると思いますよ」
疑わしそうな目。
「人の命はなくなったら手に入んないじゃねぇか」
「そういうのは別ですけど……」
えらく真面目な切込みだ。
もしかしてその彼女と命を同じ程度に考えてる……?
どこまで本気だったんだ、この人は。