第9章 番外編 赤葦side
「赤葦……」
「はい」
「……なんでもない。もう一本」
「はい」
ボールを挙げると、強烈なスパイクが打ち落とされる。
木兎さんのスパイクは、ひるむことがない。
木兎さんは疲れることを、知らない。
常に強烈。
常に100%。
だけど……
「赤葦」
「はい」
「……なんでもない。もう一本」
ここ最近の木兎さんはおかしい。
「はい」
通常練習終了後の、恒例の「木兎スパイク練」
今日30本目のスパイクがバシッと音をたてる。
サイドラインぎりぎりのストレート。
「ナイスです、木兎さん」
「おお……」
気のせいじゃない。
絶対、おかしい。
いつものはちきれんばかりのオーラがない。
『俺は強いけど、それが何か?』的な絶対的自信。
木兎さんの体全体がいつもそれを表現してる。
でも、今は……
「赤葦」
「はい」
「……なんでもない。もういっ、」
「木兎さん、もう今日は終わりにしましょう」
気がそがれてるときに練習したってだめだ。
さっさと片付けに入ろうとすると、
「え、……おい、なんでだよっ」
背中にボールが当たった。
子供か、あなたは。
「だって木兎さん、全く気持ち入ってないじゃないですか」
「そ、そんなことねぇよ!」
「そんなことあります。木兎さんだってわかってるんじゃないですか?」
うちのエースは単細胞だけどバカじゃない。
「何があったのか知りませんけど、早く立ち直って下さい」
「べ、別になにもねぇし!」
口をとがらせた顔がこっちを睨む。
ほら、その顔。
その顔するときは、何かあって図星さされた時。
……わかりやすい。
追いかけてた彼女にフラれたらしい……とマネたちからは聞いたけど、この木兎さんが女の子のことでここまでヘタレてるって……