第8章 年下の新しい恋人
「30分で行く……つか、なんかすげぇ音してんぞ。もうだれかスパイク練してんのか?」
『リエーフ……』
「珍しいな、あいつがこんな朝早くから」
『なんか目覚めたんだって』
「なにに」
『……さあ』
「愛に破れてバレーに目覚めたってか」
『知らないよ、そんなの』
「研磨、ちゃんと相手してやれよ」
『やだ……腕、もげる』
『もげねぇよ』
ククっと肩を震わせながらスマホを切ると、クロは素早く着替えてバッグを背負う。
「んじゃな」
いつもの感じだ。
甘い時間が終わる。クロは、あっさり帰る。
次の約束はない。
「うん、じゃあ……」
「あんた、明日暇?」
「え……うん」
日曜だし。大学ないし。ゼミないし。
「じゃどっか行こうぜ」
え……
「どこ行きたいか考えとけよ」
クロに事前に予定聞かれたの初めてで、どう返していいか一瞬口が固まる。
「それって……もしかして、デート、ってこと……?」
「それ以外の何かに聞こえたか?」
慌ててぶんぶん首を振る。
「でも……なんか変」
「なにが」
「クロが、そんなこと言うなんて……」
「付き合ってりゃ普通だろ。セフレでもあるまいし」
しらっといいのけるクロが腰をかがめた。
耳もとにふわりと唇があたる。
「それともあんた、やっぱセフレがいいわけ?」
からかうような囁き声。
「ち、違うっ、……違う……」
「言っただろ、俺はあんたをすべてが欲しい。身体だけじゃない。時間もなにもかも、すべて。暇なときもそうじゃないときも、俺はあんたの一番じゃないと気が済まない」
まっすぐ射貫くような真っ黒の瞳。
怖い顔……でも、愛しくてたまらない。
「私も……私も、クロの一番じゃないと、イヤだから」
「そりゃよかった。気が合うな」
「クロ、好き」
何度でも言わなきゃ。
クロが安心するまで。
何回でも。
「ずっとクロのこと好きだから……」
「とりあえず信じることにすっか……」
いつもの口許だけの笑顔が、私を見つめてる。
好き。
好きだから、ずっと一緒にいて。
ぎゅっと抱きつくと、
「もっと強くこいよ、ほら」
もっともっと強く抱きしめられた。