第8章 年下の新しい恋人
声がしない。
さっきまでの騒音ボイスがとたんに消える。
私が言おうとしてること、木兎はわかってるんだ……
「……ごめんなさい」
『……』
しばらくして、小さな溜息が聞こえた。
『……そんな声出すなって』
「だって……ごめんなさい」
いろいろ傷つけちゃったから。
自分の気持ちは最初からわかってたのに。
『気にすんなって……つか、また電話するし。黒尾がいないときに』
「え……」
「もう電話してくんな」
すかさずクロが割り込んでくる。
『おまえに訊いてないし。つか関係ないし』
「大アリだっつうの」
ニヤリと口角を挙げたクロがこっちを見る。
いつもの不敵な笑み。
でも、その顔も好き。
好き。
こみあげてきた気持ちに正直に抱きつくと、いきなり激しく唇を奪われた。
「んっ……ぁん……」
『おい、なにやってんだよっ!』
漏れる声に察した木兎の声を無視して、クロが通話を切る。
ぐちゅ、くちゅり。
熱い舌で唾液をかき混ぜられて、すぐに腰から下がぐずぐずになる。
昨日の夜からずっとクロに愛撫され続けた身体は、簡単に蕩けだす。
「クロ……」
「ベッド戻るぞ」
「……え」
「煽ったあんたが悪い」
自分を抱きしめる胸に顔を押し付ける。
むき出しの背中を撫でていた掌に腰を引き寄せられたとき、クロが手にしたままの私のスマホが震えた。
また電話だ。
「誰?」
「知らね。番号だけ表示されてる。また木兎……じゃないよな……?」
クロはスピーカーフォンにするとボタンを押した。
『クロ……部活』
「っ! やべっ」
この声はクロの後輩の研磨君……
なんで彼が私の番号知ってるの?
クロに目線で質問すると、
「俺の携帯つながらなかったらこっちにかけろって研磨にだけは教えといた」
「何時から?」
「8時……つか、もう過ぎてっけど」
電話の向こうでバン、バンとボールらしき音が反響してる。
「悪ぃ、すぐ行く」
『すぐって……まだ家なんでしょ、そこ』
よくわからないけど、研磨君は全部把握してるみたい。