第8章 年下の新しい恋人
ドン、とクロの胸を叩く。
「そんなの、好きなんじゃないよね?」
ドン、ドン。
叩くたびに、ポロッと新しい涙が零れる。
「……ひどい……ひどいよっ! そんなのひどいよっ!!」
終わってから、諦めてから、「好き」だなんて、言わないでよ……
ドン、ドン、と絶え間なく衝動にまかせて叩く私を、クロが見下ろしてる。
親とはぐれた子供みたいな、不安そうな顔で……
「怒っていい。いくらでも怒っていい……でも、嫌いになんないでくれ……頼むから」
焦ったような声で。
かすれた小さい声で。
「……俺はあんたの全てが欲しい……欲しくて、欲しくて、たまらない。あんたのこと、好きすぎて、どうしていいかわかんねぇ……だからあんたがどんなことしても俺から離れていかない確証が欲しい。どんなことしてもあんたは絶対俺から離れていかないっていう証拠が欲しい……じゃないと、どんなにあんたのこと抱いても不安で、……すげぇ怖い」
好きだから、試す。
リエーフに抱かせて。
木兎に抱かせて。
周りに見せつけて。
それでも私がクロのことを求めるのを見て、安心する。
「そんなの、……違う」
「だな」
「信じてよ、私のこと」
「……」
「もっと、信じてよ……!」
掴みかかるようにクロの襟元を引き寄せる。
少しかさついた唇に優しくキスをする。
たぶん、初めての自分からのキス。
クロが少し驚いたように目を瞠った。
私があなたを好きだってこと、知って。
もっと、自覚して。
「クロが好き……ずっと前から、私はクロが好きだから……」
信じて。
「………」
「だから……」
「あれ、二人してこんなとこで何してるんスか?」