第6章 年下の強引なカレ
恐い。
前を歩く、クロは振り返らない。
速足でどんどん歩いていく。
「ね、クロ……」
小走りで広い背中を追いながら呼んでも、返事がない。
木兎とメガネくんと別れてから、クロは一言も喋らない。
王様と呼ばれた黒髪の子も、黙ってついてくる。
クロの背中が、私も彼も拒否してる。
なんで……
結局ホテルには行かず、ただたまに街頭がある通りを歩く背中をついていくと、少し高台にある公園についた。
森然の小さな夜景がきれいに見える。
ちょっとしたスポットなのかも……と思ってたら、ようやくクロの歩みがゆっくりになった。
「あの、ムリにつき合うことないよ」
後ろを歩く彼に言う。
「あ、……はい……でも……」
「明日も練習なんだよね? 帰って休んで」
「……」
真っ黒な空を見上げると、星が沢山きらめいてる。
きっと明日も晴れ。暑い。
「休まないと体力持たないよ、明日」
ね、と笑んだとき、クロがいきなりこっちを向いた。
「あんたさ」
腕をつかまれる。
グイッと引っ張られて、顔が近づく。
クロの目……どっか色が違う。
「俺のこと、どう思ってんの?」
「……急に、な、に……」
「俺のこと、好き?」
「……なんで、そんなこと、今」
ここで訊くの?
他の人がいるところで、今、いきなり……
これまで、一度も訊いてくれたことなんてなかったのに。
「好きか嫌いか、どっちって訊いてんの。単純なことだろ」
「……」
単純じゃない。
………好き。
そう簡単に言えたらいいのに。
少し前なら、そう言えたのに。
「……ごめん」
「やっぱり木兎にするんだ?」
「違うっ、木兎は、……」
「さっき、マジでコクられてたじゃん。あいつもなに真面目になってんだか知らねぇけど」
「木兎とは、そういう風にはならない。絶対に……でも……」
でも、クロとも、きっとそうなれない。
「……ごめん」
「なに、謝ってんだよ……」
クロがくっと眉根を寄せた。
ちらりと舌が覗いて、唇を舐める。
男っぽいしぐさに、なぜか背筋がぞくりとした。
恐い。
また、気持ちが流される……
本能的に、身体が逃げそうになったのを見透かしたように、逃げ場を塞ぐように唇を塞がれた。
「……ッ」