第5章 番外編 クロside
「……あいつと一緒にすんな」
リエーフはかなり本気だ。それにストレート。
好きだ、とはっきり言う。
自分にできないことをさらりと天然でやってのける後輩に、正直イラッとする。
電車を降りても、帰り道は途中まで一緒だ。
「俺、そこ寄ってくから」
駅前のコンビニを指さす。
「わかった。じゃあね」
ゲームしながら歩き出す研磨の背中を見送ると、スマホをズボンのポケットから出す。
『今どこ? 会えない?』
すぐに返信が来た。
『今日は無理』
会いたいとき拒否られると、なぜ人はイラっとするのか……
『なんで?』
LINEで返してから、すぐ電話をかける。
『…も、』
「今日なんか用事あんの?」
一瞬つまったように、彼女が黙る。
『ゼミの飲み会あるから』
聞こえてくる声が、おかしい。
「へえ……何時から?」
『ひ……7時』
嘘だ。
直感だった。
「わかった」
電話を切る。駅に戻ると、運よく急行が来た。
程よく混んだ車内でドア横に立つ。
うっすら赤焼けが残る空を見ながら、研磨の一言を思い出した。
リセット。クロはできないだろうけど。
なんだ、それ。
リセットするもしないも、まだ何も始まっちゃいない。
始めようと思ったのに、既に勝手に始まってて、出遅れた感が悔しくて、ひっかきまわした……。
結果、試合開始の笛はなってないのに、もう第3セットで終わり、みたいな。
木兎とつきあってたことを知らなければ。
木兎がつきあってたことを自慢しなければ。
木兎がもっと嫌なヤツだったら。
あいつが、木兎と付き合ってたことをもっと後悔していたら。
……こんなどろどろにはならなかった
「って、俺が悪いってか……」
自分の感情を押さえられない自分が悪い。
何にも動じない自信があるのに、あいつにだけは、感情が制御できない。
好きだから、どこまでも信じられない。
好きだから、相手の自もちを確かめたい。何度でも、いつでも。
確かめても、確かめても、安心できないのに。
……好きすぎて、どうしたらいいのかわからない。