第3章 好きになったら……
「……」
ドアの前にいるから、入れない。
「どいて、そこ」
「鍵かせよ」
手にしていた鍵を取り上げられる。
「あんたが開けたらそのまま締め出しくらうかもしれないだろ」
クロは頭がきれる。
私の考えてることも、いつもお見通し。
クロはまるで自分の部屋みたいに鍵をあけて入ると、リビングにどさっとカバンを置く。
勝手に冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターのボトルを取り出して、飲む。
断りもせず、勝手に。
そういう態度が、誤解を生むってこと、気づいてない。
そんな態度取られたら、私じゃなくても、誤解する。
自分は、特別なんじゃないか……って。
「で、なんでこの2週間俺は無視くらってるわけ?」
ソファにどかっと座ったクロが、こっちを見てる。
感情の見えない目で。
「…………」
「この前のことが気に入らなかった?」
「……木兎が、ああいうことするって、クロ知ってたんでしょ」
「そんなのあんただって知ってただろ?」
「知らないし……」
「木兎と付き合ってたなら知ってるだろ、あいつが会ったら絶対ヤルって」
「だからって、あんなふうに……」
「あんた、すげぇ感じてたじゃん。声まる聞こえだったけど」
ニヤリと口端があがる。
面白いものを見つけたときの少年のような顔。
……やっぱりだめだ。
もう、だめだ……
「……もう、こういうの、やめたい」
「こういうのって、なに?」
「……こういう、身体だけの関係」
セフレ。
そういう認識で関係を持ったわけじゃない。
でも、いつのまにかそうなってた。
「いきなり何? もしかして、俺のテクが不満?」
「そういう話してるんじゃないでしょ……」
「久々に木兎に突っ込まれたら、やっぱり木兎がよくなった?」
「だから、そういうことじゃないって!!!」
私、なに怒鳴ってんの……
「じゃあ、なんだよ? セックスする以外に何があんの?」
「………」
気持ちが欲しいから。
そう言ったら、クロは笑う…に違いない。
なんだ、それ……って。
だから、言えない。