第7章 明日も笑えるように
「黄瀬、帰ろう」
「あ…、ハイ」
負けたせいか機嫌の悪かった監督は、さっさとミーティングを終わらせ、解散した。
それから着替えを済ませ部室を出た私は、校門でボーっと立つ黄瀬に声を掛けた。
今、黄瀬はどんな気持ちなんだろう。
「ねぇなまえさん」
「ん?」
「今日、オレ初めて負けたんスよ」
「うん」
「なんかショックっていうか、ぽっかり穴が開いたっていうか…」
「うん」
黄瀬はポツリ、ポツリと話し始めた。
その横顔はいつになく真剣だ。
「なんかすごい苦しいんスよ」
「うん」
「黒子っちが言いたいこととか、正直まだわかんないスけど…」
「…うん」
「でも、やっぱり負けるのは悔しい。で、次は絶対勝つっス!」
「うん」
「それでね、やっぱりオレ、バスケ好きって思ったっス」
そう言った黄瀬の顔は凄くスッキリしたような、良い顔をしていた。
「…そっか」
「ハイ」
「良かった」
「え?」
「ううん、何でもない」
「なんスかぁ~」
「何でもないって!」
つられてか、ホッとしてか、私も頬の筋肉が緩んだみたい。
やっぱり、「バスケが好き」って言って笑ってる方が私は好きだ。
「もー、そんな顔されたら黙るしかないじゃないスか」
「え?」
「かわいすぎっス!」
急に立ち止まって頬を引っ張られた。
生意気になんだ、なんて思ってる暇もなく。
…というのも、私は「可愛い」なんて言われ慣れてなくて。
「は?!な、なにっ、いきなり」
「本音を言ったまでっスよ」
「…なんでそんなドヤ顔なのよ…」
「気のせいっスよ」
ほんと、生意気だ。
「お店の前で何してるんですか」
「「あっ」」
テツヤだ。…ステーキボンバー?って、結構高くなかったっけ。
「…みょうじ先輩、顔が赤いですが…」
「えっ?気のせいじゃない?!」
「ちょっと無理があるかと…」
ああもう、なんてタイミングの悪い…。
「そうだ黒子っち、ちょうど良かった。ちょっと…話さねぇスか」
「…?」
「ま、ここでもなんだし向こう行こう?」