第6章 あの頃の気持ち
「おい黄瀬!どこ行ってたんだよ!」
体育館に戻ると、笠松先輩の怒声が降ってきた。
まぁ、もちろん怒られてるのは黄瀬だけど。
「すみません…」
「挨拶くらいちゃんとしろ!失礼だろ」
「っス…」
「たく、いつまでも落ち込んでんなよ」
「もう大丈夫っス!」
「あーそうかい」
黄瀬はキリッと引き締めた顔をして、片付けを始めた。
人生初の負けだったか知らないけど、こんなことでいつまでもウジウジしているようじゃこの先伸びないし。
とりあえず切り替えるところをしっかり切り替えてくれたら大丈夫だろう。
「みょうじ」
「笠松先輩…どうしました?」
「黄瀬、アイツ大丈夫か?」
「んー、大丈夫だと思いますよ。大丈夫じゃなくても大丈夫にします」
「なんだそりゃ」
黄瀬って実は脆い人間なんじゃないかなーなんて、思ってるのは私だけかもしれないけれど。
それでも私は黄瀬に、海常のみんなに、私の思うように接してあげる。
それが私流のサポート。
もちろん、彼らに合わせることも忘れないけど。
そうして少しでも心を開いてくれたら、私はもっとマネージャーとして大きく成長できる。
「あ、これさっきの試合のスコアです」
「お、サンキュー」
「やっぱり、新チームだからかまだまだ不安定ですね」
「ああ…」
「ま、今日は皆さんの油断が招いた結果だと思いますけどね?」
「い、いや…」
「私の忠告も聞かずに?油断して?負けて?」
「や、わ、悪かったって…」
そうだ。私は最初から忠告していたんだ。
それなのに誰一人聞いてくれなかった。
まあ、結果的に負けることになって黄瀬も少し気持ちに変化があったみたいだし、先輩たちも改めて気が引き締まるだろうし、結果オーライと言えばそうなるか。
「ま、今日はこの辺で。しっかりストレッチして今日の反省して帰ってくださいね!」
「お、おう…」
…けど、そうは言っても黄瀬は直で聞かないとわからないな…。
大丈夫だろうか。
「…なんか心ここにあらず、って感じだな…」
モップを掛けている黄瀬は、いつもの元気な様子は無く何か考え込んでいるようだった。