第6章 あの頃の気持ち
テツヤが再出場してしばらく、残り15秒。
点差は無く同点まで持ち込まれた。
「守るんじゃダメ!攻めて!!」
リコちゃんがそう叫んだ時、残りは7秒。
笠松先輩のシュートを火神くんがブロックし、テツヤと火神君のツーメンだ。
本当ならこういう時、私は海常を応援すべきなのだろう。
だけど、これは練習試合だしまだ新チームの課題探しともいえる。
今の黄瀬に何かが欠けているのならば、それを直すことができるそのきっかけを作るのは今しか無いんじゃないのか。
私は何も言えず、じっとコートを見つめていた。
「させねぇスよ!!」
黄瀬が叫び、火神くんのシュートを止めようと跳んだ。
だがそのジャンプは火神くんに届かず、テツヤと火神くんの連係プレイは成功し、試合終了のブザーと共に勝敗が決まった。
「負け…たんスか?」
その時、黄瀬の頬を一粒の涙が伝った。
周りのギャラリーはその様子を不思議に思っているようだったが、私にはその意味がわかった。
なにせ、彼は負けを知らなかったのだから。
今まで何をしてもそれなりに出来たし、もちろんバスケだって青峰らに及ばないものの、才能は本物で、こんなにもハッキリと負けることはなかった。
だからこそ、流れた涙だったのだろう。
「そのスッカスカの辞書に、ちゃんと『リベンジ』って単語追加しとけ!」
そんな黄瀬に私は何も言えなかったが、今は笠松先輩や他の先輩が何か言ってくれる。
頼りになる先輩や仲間がいる。
そうして彼はまた成長するんだろう。
「ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。また夏に会いましょ」
「うん。その時は負けないからね?」
「あら、それはウチもよ」
私はリコちゃんと挨拶を済ませ、誠凛の皆さんを見送ったところで黄瀬の姿を探した。
「(そういえばアイツ…来てたな)」
試合中、確か第4Qくらいだ。
これまた懐かしい顔をギャラリーで見かけた。
アイツは私に気が付いていただろうか。
「あ、いた」
ようやく見つけた金髪頭のその手前には、その懐かしい緑頭が見えていた。
そう、緑の頭。緑間真太郎だ。